特別読み切り短篇小説:「ブラック佐為篇」  ●贋作:水樹剣正●

日本棋院からの帰り道。
「いいですか、ヒカル」
「なんだよー佐為ー。オレの声は人に聞こえるんだから、話しかけるなって言っただろ」
「いえ、だからこそ今、話しておきたいのです」
「?」
「わたしは ヒカルの味方でもアキラの味方でもありません」
「わかってるさそれくらい。佐為」
「ですから、ヒカルの打ち方や生活態度以外には、一切口を出すつもりはありません」
「どうしたんだよ佐為。今更」
「ですから、今からわたしが言う事は、ヒカルの味方として言うのではありません」
「まわりくどいなー。早く言えよ」
「期待がふくらんでしまうのです。この二日間……」
佐為は後ろを振り返り、言った。
「ずっとヒカルをつけているのです。緒方九段が」
ヒカルの頬を冷や汗がつたう。
「わたしはあの者と……緒方精次九段と打ちたい」
「それはうっとうしいな。なるべく早く打たせてやるよ……そのあとすぐにツブすけどね、佐為」
……ヒカルは祖父の家のお蔵で、血の跡のついた碁盤を見つけた。「DEATH碁盤」。その盤上で石を並べ棋譜を再現すると、その棋譜で黒番を打った者は才能を奪われ、棋士としての生命を絶たれるという呪いがかけられた、恐るべき碁盤である。
アキラの前にヒカルが現れることと時を同じくして、「sai」という謎の人物の暗躍により、優秀な棋士たちがつぎつぎと囲碁界から消えていった。緒方九段は事件を追ううちに、ヒカルが「sai」である、と確信するに至った。アキラを「sai」の脅威から守るため、また、「アキラが『sai』ではないのか」という一部からの疑惑を払拭するため、きょうもヒカルの尾行を続けているのであった。ただ、尾行をするのに白いスーツはいかがなものか。
「新世界の神の一手は、オレが極めるんだ」
佐為は今夜もヒカルを鍛える。銀色の扇子で盤面を指し示して……。
「デス碁盤は今までにも、人間界で落とされたことがありましたが、ヒカル、あなたほどデス碁盤を使いこなした人はいない……。あなたなら打てる……新世界の神の一手を。……ククククククッ」


DEATH碁盤 How To Use It(Sorry, Japanese Only)
DEATH碁盤の盤上で石をならべ棋譜を再現すると、その棋譜で黒番を打った者は才能を奪われ、プロ棋士ならばその職業生命を絶たれる。
勝負無しの棋譜ではDEATH碁盤の効果は得られない。
棋譜の存在しない対局の再現は無効。
石から手が離れたのち、人間界単位で60秒の間に、次の手を打たなければ無効。
棋譜の再現は、先番、後番の合計で5時間以内。
……(中略)……
付記:棋譜の再現には、DEATH碁石とDEATH碁笥とを使う。また計時にはDEATH碁盤の付帯機器、対局DEATH時計を使う。