まほろ駅前多田便利軒

侮りがたし、直木賞! 恐るべし、三浦しをん! 内容に関してさして知識もないままに読み始めた直木賞受賞作品「まほろ駅前多田便利軒」を読了。心底参った、ヤラれた!

タイトルからして、ひとのいい便利屋さんが遭遇する事件ともいえないハートウォーミングな小さな出来事をつづったお話……かと思いきや、これは感動作の皮をまとった、まごうことなき探偵小説、ミステリであったのだ。謎の提出→探偵行動→解決篇、というミステリ形式のもとに書かれた連作短篇推理小説であったのです。「信頼」というテーマと、「家族」、「便利屋」、「犯罪」、「肉体の傷」といういろいろな題材がみごとにマッチした完成度の高い、なおかつ感動させるお話だったのでした。涙があふれる感動は経験していましたが、そのあふれる涙の流れが止まるほどの感動もあることを初めて知りました。

とはいえ、そこは妄想炸裂の三浦しをん、キャラクター・メイキングは強烈だし、そこらのギャグ作家を蹴散らす高度なギャグセンスも惜しげもなく披露している。これほどのおもしろい&感動作を、基本ラインであるコメディ・タッチをくずさずに書ききる豪腕。作品を成す要素のどれもに感嘆しました。

読み手としては三流もいいところのわたくしですが、ひとりでも多くのかたに読んでいただきたい傑作、と断言できます。「直木賞だから、一般向けのアレでしょ。作家のベスト作じゃないだろうし」と、ハスに構える向きもありましょうが、ここはダマされたと思って、ぜひご一読ください。

まほろ駅前多田便利軒

まほろ駅前多田便利軒